「職業とは何か」(梅澤正)

職業選択の基準は「やりたいこと」だけではない

「職業とは何か」(梅澤正)
講談社現代新書

今、義務教育の現場では
キャリア教育の充実が叫ばれています。
常々疑問に感じていることは、
「自分のやりたいこと」主導の
進路指導です。
「やりたいこと」を見つけることが
大切だと、中学校の進路指導では
繰り返し説くのですが、
私はずっと違和感を感じてきました。

中高一貫校に10年間勤務し、
その違和感の理由がわかりました。
大学へ進学する
普通科の生徒はともかく、
総合技術科(工業科)の生徒の多くは
中学校時代に想定していない職業に
就いている現実があります。
「新日鐵住金」「JFEスチール」
「IHI運搬機械」「住友電気工業」…。
技術者になりたいとは
考えていなかった子どもたちでしたが、
彼らは実際にはこういう職業を目指し、
選択したのです。

職業選択の基準は
「やりたいこと」だけではないのです。
本書には、そのことが
丁寧かつ明確に書かれてあります。

「職業は、
 『好き』『やりたい』といった
 個人的な感情だけで
 成り立っているわけではなく、
 もっと複雑な構成物です。」

やりたいことしかやらない、
では世の中で通用しません。
やりたいことだけを
前面に押し出す進路指導では、
子どもたちは
「あれはいや、これもいや」となりがちで、
結果として「自分に合う職業が
見つからない」となり、
意味のない「自分探し」に
明け暮れることになります。

「実際のところは、
 『職業が人を選んでいる』という
 側面もあるのです。」

このことは無視できないと思います。
人が職業に関心を持つ以上に、
職業はその担い手に関心を持ち、
それゆえ担い手は多くの資質を
職業から求められるからです。

「自分本位の職業選びが先行すると、
 社会の視点に立ち
 社会の必要性に応えるという
 就職活動が軽視されがちです。」

職業は社会や世の中が求めるものであり、
職業に就くということは
社会の一員として
世の中に貢献することなのだと
私は思います。

「やりたいこと」を目指すのが
間違っているとは思いません。
しかし、自分中心の視点だけでなく、
職業の持つ社会性や生産性、
働き方と生き方の関わり、
職業能力としての専門性など、
多様な切り口から
子どもたちに職業観を
養っていくことが大切だと思うのです。

これまで私が頭の中で
漠然と考えていたことを、
明確に書き表している本書、
私の愛読書の一つです。

(2018.10.22)

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